Flex と Bison を併用するとき、Flex から生成される関数 (yylex) は、トークン (終端記号) の情報を戻り値とし、それを Bison が利用します。 トークンが 1 文字の場合は、通常、戻り値は文字コードそのものです。トーク ンが 2 文字以上の場合は、Bison で %token により宣言されたマクロ を使用します。
ここでは 2文字以上の演算子の例として、*+ という演算子を x *+ y が x * 256 + y を表し、+, -と同じ優先順位を持つ、 左結合の演算子として導入します。仮に FOO 演算子と呼ぶことにします.
Flex のソースファイル(mylexer.l)には次のような #include 文を入れておきます。インクルードされるファイル (myparser.h) は Bison が生成するファイルで、%token に より宣言されたマクロの定義が書かれています。
%{ void yyerror(char*); #define YY_SKIP_YYWRAP int yywrap(void) { return 1; } #include "myparser.h" /* myparser.h は bison が生成するファイル */ %} %option always-interactive %% [ \t]+ { /* ここでは何もしない */ } [0-9]+(\.[0-9]+)?(E[+\-]?[0-9]+)? { /* NUMBER というトークンを返す。その値(“属性”)は yylval という大域変数に代入する。 */ sscanf(yytext, "%lf", &yylval); return NUMBER; } [+\-*/()\n] { /* + - * / ( )の場合は、マッチした文字をそのまま返す。*/ /* マッチした文字は一般に yytext[0] 〜 yytext[yyleng-1]。*/ return yytext[0]; } "*+" { /* 複数のルールにマッチする場合は,長い方が優先される */ return FOO; } . { yyerror("不正な文字です。"); return '\n'; } %% /* なにもなし */
動作の中に return 文を入れておくと、 その式の値が Flex の生成する yylex 関数の戻り値になります。 yylex 関数は呼び出されるたびに、次のトークンを返します。
トークンは、1文字からなるトークンの場合は通常、 文字コードそのまま、2文字以上からなるトークンの場合は %token で宣言されたマクロです。
トークンの “種類”(NUMBER など)を yylex 関数の値として返し、値(“属性”)を yylval という大域変数に代入していることに注意します。 これが通常の yylex 関数の書き方です。
一般に正規表現にマッチした文字は、 yytext という配列に保持されています。また yyleng という変数にマッチした文字の数が保持されています。 だからマッチした文字は一般に yytext[0] 〜 yytext[yyleng-1] ということになります。(通常の C 言語の文字列とは異なり、 最後 (yytext[yyleng]) にヌル文字 '\0' は入っていないので注意が必要です。)
例えば、入力が “(12*+34)*56\n” という文字列の場合、 yylex() の戻り値とそのときの yylval の値は次のようになります。
1回目 | 2回目 | 3回目 | 4回目 | 5回目 | 6回目 | 7回目 | 8回目 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
yylex() | '(' | NUMBER | FOO | NUMBER | ')' | '*' | NUMBER | '\n' |
yylval | 12.0 | 34.0 | 56.0 |
Bison のソースファイル (myparser.y)の方は、 単独で使う場合とあまり変わりませんが、 yylex 関数は Flex の方で用意するのでプロトタイプ宣言だけしておきます。
生成規則の中で、トークン(終端記号)として文字リテラル ('+', '-' など) と %token で宣言したマクロを用いることができます。
%{ #define YYSTYPE double /* トークンの属性の型を宣言 */ #include <stdio.h> #include <stdlib.h> /* exit 関数を使うため */ void yyerror(char* s) { printf("%s\n", s); } int yylex(void); /* yylex のプロトタイプ宣言 */ %} %token NUMBER %token FOO /* 演算子の優先順位 */ %left '+' '-' FOO %left '*' '/' %% input : /* 空 */ | input line {} ; line : '\n' { exit (0); } /* 空行だったら終了 */ | expr '\n' { printf ("\t%g\n", $1); } ; expr : NUMBER { $$ = $1; } | expr FOO expr { $$ = $1 * 256 + $3; } | expr '+' expr { $$ = $1 + $3; } | expr '-' expr { $$ = $1 - $3; } | expr '*' expr { $$ = $1 * $3; } | expr '/' expr { $$ = $1 / $3; } | '(' expr ')' $$ = $2; } ; %% int main(void) { printf("Ctrl-cで終了します。\n"); yyparse(); return 0; }
C ソースファイルはそれぞれ次のコマンドで生成します。
bison -omyparser.c -d myparser.y flex -omylexer.c -I mylexer.l
必ず -d オプションをつけて Bison を実行します。 このとき -o オプションで、 C ファイル名 (この場合 myparser.c) を指定しておきます。 すると、拡張子を除いて同じ名前のヘッダーファイル (この場合 myparser.h) も生成されます。 (-o オプションをつけないと、 myparser.tab.c と myparser.tab.h という名前のファイルが生成されます。)
あとはこの 2 つの C ソースファイルをまとめてコンパイルします。
Borland C Compiler の場合は、
bcc32 -ecalc mylexer.c myparser.c
-e は実行ファイルの名前を指定するオプションです。
Microsoft Visual Studio の場合は、
cl /Fecalc mylexer.c myparser.c
/Fe は実行ファイルの名前を指定するオプションです。
これで calc.exe という名前の実行可能ファイルが生成されます。 次のコマンドで実行できます.
calc