Bison について

Bison は BNF とそれに対する動作記述から、 C 言語の構文解析系(パーサー)を自動生成するプログラムです。 Bison のソースファイル(通常 .y という拡張子をつける)は、 次のように書きます。 (これは通常の四則演算の式の文法です。 この例では単項の「-」はサポートしていないので、 -1+22*(-3) のような式は構文解析できません。 単項の「-」を扱う方法は yacc (bison) のマニュアルを調べて下さい。)

ファイル calc.y

説明

最初の C 宣言部(C declarations というコメントの部分、「%{」 と「%}」の間)には後述の動作記述の中で用いる関数の定義や宣言を書きます。 特に YYSTYPE という定数マクロには属性値(意味値)の型を指定します。 ただし、属性値の型が int の場合はこのマクロの定義は必要ありません。

この例では exit 関数や isdigit 関数を使用するため、 それぞれ stdlib.h, ctype.h というヘッダーをインクルードしています。また、 エラーがあったときに呼ばれる関数としてvoid yyerror(char* s) を定義しておきます。 (この例では単に printf を呼び出しています。) また、yylex 関数は下で定義しているため、ここでプロトタイプ宣言してあります。

Bison 宣言部(Bison declarations というコメントの部分、最初の「%%」まで)には 終端記号(トークン)(と非終端記号)に関する宣言を書きます。 %token はトークンを宣言します。トークンは出力の C プログラムでは定数マクロとして定義されます。 下の優先順位の宣言や文法規則部でトークンとして使えるのはここで定義したマクロか文字リテラルです。

Bison 宣言部には演算子の優先順位と結合性を宣言することもできます。 %left, %right, %nonassoc のいずれかのあとに演算子を表すトークンを空白で区切って 並べて書きます。%left は左結合、%right は右結合、%nonassoc は非結合を表します。 また、優先順位が高い演算子ほど下に書きます。同じ行に書かれている演算子は優先順位は同じです。 上の例では、「+」「-」「*」「/」はすべて左結合で、 「*/」が「+」「-」よりも優先順位が高い、と宣言されています。

文法規則部(grammar rules というコメントの部分)は Bison の核心部分で、 最初の「%%」から 2 つめの「%%」までが文法規則部です。 文法規則部には BNF とそれに付随するアクションを書きます。 BNF は教科書などでよく使われる記法の右矢印「→」の代わりにコロン「:」を 使っていることに注意してください。また各 BNF の最後にセミコロン「;」を書きます。

特に指定しなければ開始記号 (start symbol) に関する BNF を最初に書きます。

アクションは還元時に実行されるプログラムのことです。 アクションの中身は通常属性値(意味値)の計算です。 属性値は解析木の各節(枝分れの部分)に関連付けられる“値”です。

生成規則の中では、終端記号(トークン)は、1文字からなるトークンの場合は通常、 文字リテラルそのまま、2文字以上からなるトークンの場合は %token で宣言されたマクロで表します。 Flex で生成される yylex 関数はトークン(文字リテラルまたはマクロ)を返します。

終端記号(トークン)の属性値は、 字句解析器(yylex 関数)から yylval という大域変数に代入されて受け渡されます。

例えば、入力が “(12+34)*56\n” という文字列の場合、上の例の yylex() の戻り値とそのときの yylval の値は次のようになります。

1回目2回目3回目4回目5回目6回目7回目8回目
yylex()'('NUMBER'+' NUMBER')''*'NUMBER'\n'
yylval 12.0  34.0  56.0 

還元時(つまり、解析木の節を作るとき)に対応するアクションが実行されます。

非終端記号の属性値は、各部分木の属性値から計算されます。 $$ が還元される生成式の左辺の属性値、 $1, $2, … が 右辺の 1 番目、2 番目、… の文法要素の属性値を表します。 例えば、 $$ = $1 * $3 というアクションでは、 1 番目と 3 番目の部分木の属性値の積が、節の非終端記号の属性値となります。

例えば、 1 + 2 * ( 3 + 4 ) \n \n というトークン列から、上の Bison プログラムは以下のような解析木を生成します。 青字で示されているのが各節の属性値です。


注 1 この節の属性値はないが、属性値を計算する副作用として “15” が出力される。
注 2 この節の属性値はないが、属性値を計算する副作用として、プログラムが強制終了(exit)される。
注 3 この節は実際には生成されない。(その前にプログラムが終了する。)

追加の C プログラム部(addtional C code というコメントの部分)は 2 つめの「%%」からファイルの最後までです。ここは文字通り追加の C プログラムを書きます。この部分は C のプログラムの末尾にそのままコピーされます。

この例では yylexmain 関数を定義しています。普通は yylex 関数は Flex などで定義しますが、この例では説明のため Bison プログラム中で定義しています。 ここで yylex 関数の戻り値はトークンです。すなわち文字コードか、%token で定義した定数マクロ(この例では NUMBER)です。また、トークンの属性値(意味値)は yylval という大域変数に代入して返しています。マクロ YYSTYPE は、 この yylval の型を表します。 ファイルの終わりに到達するなど、これ以上トークンがないときは、 yylex 関数は 0 を返します。

また、この例では main 関数は Bison のプログラム中で用意していますが、 通常は別の C のソースファイルに定義します。この例の main 関数は、 単に yyparse を呼び出すだけです。 この yyparse は、上の文法規則部から Bison が生成する関数です。

生成

このファイル(ファイル名を calc.y とする)から C ソースファイルを生成するには

bison calc.y

というコマンドを実行します。 これで calc.tab.c という名前 (.y ファイルの名前の後ろに .tab がつく)の C ソースファイルができます。 また、 -o というオプションで、 C のファイル名を指定することができます。例えば、

bison -ocalc.c calc.y

calc.c という名前の C ソースファイルができます。

この例の場合は、この C ソースファイルを普通にコンパイルすると、 (警告 (Warning) がいくつか出ますが) 実行可能ファイルができます。

Microsoft Visual Studio の場合は、

cl calc.c

GCC の場合は、

gcc calc.c

次のコマンドで実行できます。

.\calc
コンパイラのホームページ
Koji Kagawa